PROJECT MEMBER
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野口 裕祐
YUSUKE NOGUCHI
HP-BU 市場開発担当
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新谷 浩章
HIROFUMI SHINTANI
HP-BU 開発部
ホスピタルME開発室 -
加藤真司
SHINJI KATO
HP-BU 営業部
輸液麻酔グループ
ME機器担当 -
瀬戸口 大介
DAISUKE SETOGUCHI
研究開発本部
研究管理部
デザイン室 -
岩永 望
NOZOMI IWANAGA
研究開発本部
研究管理部
デザイン室
すべての部門が一体となり、
開発に挑む
輸液ポンプとは、設定した流量と予定量で薬剤などを正確にかつ確実に送液するためのME機器。JMSの輸液ポンプはこれまで医療現場のニーズに応えながら進化を遂げてきたが、現行品は販売開始から約10年が経過していた。そこで、性能を高めたよりよい製品を医療現場に提供したいと考え、新型の輸液ポンプの開発が検討されることになった。
まず、市場開発担当の野口と開発部の新谷は、現行品に対して医療従事者はどのような想いを持っているのかヒアリングを行い、新たな輸液ポンプの開発方針をまとめていくことからはじめた。そして、市場開発担当と開発部で行ったヒアリング結果から輸液ポンプの開発で重要とされる項目をまとめ、「操作性の向上」と「小型軽量化」という開発コンセプトを決めた。
これまでの新製品の開発は製品の企画から開発、デザイン、営業へと部門ごとに進めていた。そうすると、別の部署で新たな意見が出たり、要件が追加されたりするため、議論を重ねていても、当初決定したコンセプトとは違う製品になってしまうことがある。そのようにして完成した製品は、ユーザビリティの観点で改善の余地を残していた。今回、野口は「JMS発信で“あたりまえ”を変え、医療従事者が使いやすい製品をつくる」という強い意志を持っていた。そのためには、関係者全員が同じ認識を持ち、同じ方向性を向いていることが重要だと考え、キックオフの段階からすべての部門が一体となって取り組むことにした。そして、事前調査から参加していた開発部の新谷をはじめ、営業部の加藤、デザイン室の瀬戸口と岩永が参画することになった。「操作性の向上」と「小型軽量化」という開発コンセプトを実現するために、仕様や機能がどうあるべきかを徹底的に議論を重ね、目指すべきものを明確にしていくなど、新型の輸液ポンプの開発が本格的にはじまった。
苦難を乗り越え、
理想を具現化させる
ー 操作性の向上 ー
現行品には十数個のボタンがあり、どの操作フローでどのボタンを押すのかをしっかりと把握しなければ、輸液ポンプを安全に使うことはできない。操作方法が複雑なうえ、設定ミスをすると患者様の命に関わる可能性がある。「輸液ポンプを使用することの多い看護師は、絶対に間違えてはいけないという不安やストレスを常に抱えているのではないか」と考えていた。また、「毎日行う作業だからこそ、簡単で確実にできるようにしたい」という想いもあった。そのためには、どうすればいいのか――。タッチパネルを搭載するという結論に至るまであまり多くの時間はかからなかった。
やるべきタスクだけが表示され、操作が完了すると次のタスクへ進む。医療従事者が迷うことなく、直感的に操作できる製品こそが、医療現場の安心・安全を高める。この理想をタッチパネルであれば実現できるという自信がある一方で、医療従事者に受け入れられるのかという懸念もあった。なぜなら、患者様の命と常に向き合っている医療現場では、手技が大きく変わることのリスク面を重視する傾向があるからだ。現在、タッチパネルはスマートフォンなどの普及により世の中に広く浸透しているが、開発当初、全面的にタッチパネルが採用されている輸液ポンプはなかった。そのため、医療従事者はどのような反応をするのか不安があった。しかし、新谷と瀬戸口がデモ機を持ってヒアリングに行ったとき、タッチパネルでの操作に不安を持つ医療従事者は少なく、中には、自ら進んでデモ機を操作している人もいた。
医療従事者の反応に安堵したメンバーは、どのタッチパネルを採用すべきなのか、議論をしていく。高いスペックものを採用すれば、いいものはできるが、その分価格も高くなってしまう。必要な性能があり、高価にならないものはどれか。最適なタッチパネルを見つけるために、妥協することなく意見を出し合った。そして、新谷は、タッチパネルが決定すると、耐久性の試験と操作方法の開発に取りかかる。
メーカーのカタログに耐久性の情報は記載されているが、安心して安全に使用できる輸液ポンプだと自信を持って医療現場に届けるためには、自分たちの目で確認すべきだと考えた。そこで、開発部でパネルをタッチするという動きができる機械をつくり、何万回という試験を繰り返し、耐久性の評価を行った。
次に、タッチパネルの操作方法の検討を行った。操作方法には静電式と感圧式の2種類あり、日常的に触れる機会の多いスマートフォンなどには静電式が採用されている。しかし、静電式だと感度がよく、静電気でも反応してしまう可能性がある。誤作動を防止するためには、しっかりと押す動作が必要だと考え、感圧式を採用することにした。一方で、ストレスなく操作してもらうためには、スマートフォンを操作する程度の力で反応することが望ましい。感圧式でありながら、静電式のようなタッチで確実に反応するという力加減が非常に難しく、検証を繰り返していく。そして、試行錯誤の末、ようやく操作性の向上の要となるタッチパネルが完成した。
ー 小型軽量化 ー
現行品の重さは約2.2kg。医療従事者は一度に複数台の輸液ポンプを持ち運び、病室でポールに設置するなどの作業を行う。医療従事者にとって、これらの作業は負担が大きいのではないかと考えていた。そこで、新谷と瀬戸口は、実際に医療現場に足を運び、1kg程度の製品の模型を見せながら、「小型軽量化」についての意見を医療従事者に募った。ほとんどが肯定的な意見で医療現場からのニーズが高いことが分かり、コンセプトの手応えを感じた。
しかし、「小型軽量化」の実現には、“本来あるべき大きさと理想の大きさとのギャップを埋める”という大きな壁があった。なぜなら、機能面や性能面の高さによって製品のサイズが決まるため、高いスペックになるほど製品が大きくなるからだ。今回は、機能面でも性能面でも現行品よりも向上させ、かつ、小さくするというこの相反することを両立させなければならない。野口と新谷、瀬戸口は意見を出し合い、「この部品の素材を金属から樹脂に変更できないか」「このねじを外すことはできないか」「複数の機構を1つにまとめることはできないか」などあらゆる角度から検証を重ねる。細かくレイアウトを検討し、コンマ単位で設計を見直しながら、製品のサイズ、重さを調整していく。そして、容積、重量ともに現行品から約3割削減させた新型の輸液ポンプが完成した。
デザインまでこだわり、
業界に新たな風を
もたらす
瀬戸口は、新製品が医療現場に受け入れられるためには、操作や取り扱いが難しそうに見えないことが大切であると考えていた。そのため、開発過程において、機能や性能、大きさや重さだけではなく、“従来のどの輸液ポンプよりも、取り扱いや外観がシンプルであることが一目で分かる”という見た目のデザインにもこだわった。さまざまな制限がある中で「操作性の向上」「小型軽量化」そして、「一目見て分かるシンプルさ」を実現することはとてもハードルが高かったが、メンバーとの協業により、デザインコンセプトを守りながら製品化させることができた。
一方、岩永は、『キュアセンス輸液ポンプIP-100』と名付けられた新型の輸液ポンプを医療従事者にプロモーションしていくためには、どのようなカタログがいいのか思案していた。加藤からカタログの表紙は輸液ポンプを使用しているシーンを、中のページにはタッチパネルの実寸大の写真を掲載にしてほしいとの依頼があった。加藤の意向も踏まえながら、実際に使用しているところをイメージしてもらえるだけでなく、身近に感じてもらえるようなデザインや内容にこだわり、撮影からカタログの編集まで一貫して制作を進めた。
そして、加藤は立案した販売戦略を全国の営業担当者へ共有し、営業全体が一致団結しながらリリースに向けて準備を進めて行く。その中で、加藤は、新しいものにネガティブな印象を持ち、やり方が変わることに抵抗感のある医療現場で果たして本当に受け入れられるのかという不安を抱いていた。ところが、この不安は大きく裏切られ、「直感的に操作ができる」「軽くて持ち運びやすい」と多くの喜びの声が寄せらせた。医療従事者が常に緊張感を持って操作しているME機器が受け入れられたことは、言葉では言い表せないうれしいさがあった。
そして、瀬戸口は、デモ機を持っていった際に、看護師が自然と操作している姿を見て、自分たちが目指したユーザーインターフェースがカタチになりつつあることを実感していた。このデザイン性の高さは医療従事者からの評価だけでなく、グッドデザイン賞を受賞するという形でも証明された。『キュアセンス輸液ポンプIP-100』の機能性や革新性、デザイン性は業界に新たな風をもたらしたのだった。
今回の輸液ポンプの開発は、初志貫徹で自分たちの想いをしっかりと医療現場に伝えることができ、医療機器の“あたりまえ”を変えることができた。しかし、それだけで、満足することない。みんなで一緒によりよい製品を創り上げようと意識を忘れることなく、今後、多くの医療現場で使用いただくことで出てくるさまざまな声に向き合い、輸液ポンプのさらなる進化を目指していく。
POINT
- ・徹底したユーザー視点のこだわりを実現するために、
すべての部門が一体となって取り組んだ - ・目指すべきものを具現化するために、妥協することなく愚直に進めた
- ・革新的な製品を開発し、グッドデザイン賞を受賞した